ISMRM2008を振り返って;Molecular/Cellularイメージングに注目して

Update : 2008.05.11 (22:21:36)

Posted : 2008.05.11 (22:21:36)

ISMRMにおけるハードウェアや計測手法の発展は、この10年が、SENSE、DTI、
および高磁場化に刺激されて牽引されてきたことは誰しもが認めることであろうが、
特にハードウェアは次のレベルへ上がるためには大きな投資が必要な技術領域に
入ってきているため、一般の大学の研究者はそのような本流には組み入れられず、
非常にニッチな領域か、実用化には到底なりそうもない研究を始めるしかない
ような状況に陥っていることも否定できない。
その一方で、Molecular/Cellularイメージングを用いた小動物の研究発表が数を増して
きている。MRIの装置説明すらしない発表者もいるが、基礎研究は4.7Tもしくは7T
で行い、将来的には1.5Tへダウンサイズして臨床まで持ち込みたい、という暗黙の
了解があるようだ。(我々のマウスラット用MRIは先を進み過ぎているようだ)。
Molecular imagingとcellular imagingは言葉の定義の上でそれなりに区別されている。
米国の学会かつ医学会であるのでDiabetes, Angiogenesis,などの治療を最終目的とした
研究が多い。MolecularイメージングはNIHのMICADウェブサイトに現在利用可能な
何十種類かのデータベースが公開されている。CellularイメージングはSPIOかUSPIO
をおもに用いる。日本であれば、何かといえば癌もしくは癌の可視化の研究になりがち
であるが、ISMRMではあくまで癌のセッションは全体の一部である。
Molecular imagingは、抗原抗体反応、ペプチド結合などを利用して、標的の造影効
果を得ようとするものであり、手法は数多くある。キーワードだけ羅列すると、
αvβ3、19F(つまりフッ素のMRI)、CEST、EPCs、HDL,MntR,等である。
19Fは、ナノ粒子(C10F20O5,15crown-5Ether等)を用いることにより、単原子状態
よりも数十倍も感度を上げている。医学生物学における可視化モダリティとして、
CT,US,MRI,および19Fと称して、19Fを4つ目に取り上げている大物研究者の発表
もあり、ナノパーティクルによって新しい19Fの時代が来ていることが実感できる。
ハードウェア寄りの研究者が、今更ながら、マウス用の19F/1Hのデュアルチューン
コイルを開発して学会発表などしているのはこの辺が理由であると考えられる。
CESTは、MT(Magnetization transfer)を利用して1HプロトンNMRのサイドローブ(数ppm)
を励起しコントラスト変化を狙うものである。NMR的には玄人好みで面白そうである。
Mn2+を用いるMEMRIもMolecularイメージングに分類されるようであり、まずは簡単
に脳を造影できることや、生体への刺激を工夫すれば、たとえばマウスに40kHzの音
を聞かせる等によりコントラスト変化を得ることなどから、脳研究の手法として徐々に
一般化してきているようである。
Cellular imagingは、生体から取り出した細胞(Stem, Islet)に造影剤を浸透させ、こ
れをまた体内に戻し、目的の部位の造影効果を得ようとする。おもに、陰性造影剤
が使われる。SPIOやUSPIOが用いられ、1~10個の細胞数でも、マウスのMRIで
あれば可視化できるとNIHの小林先生は力説されていた。
体内の細胞レベルでの障害を復旧させようとするStem/Islet細胞の能力に期待し、
そのような箇所に細胞が流れ着いて定着するのが造影効果を伴って見える。糖尿病
の患者にUSPIOを導入したIslet細胞をInjectし、膵臓に定着するのを確認しながら、
血糖値も計測する、というのが理想的な目標であろう。
Cellular Imagingの弱点は、Feパーティクルを保持した細胞が細胞分裂すると濃度が
下がり、死んでしまうとマクロファージに取り込まれて移動してしまうという点で、
これらが組み合わさると、陰性造影剤であることも災いし、パーティクルの位置を
見失うため計測が成り立たなくなってしまう。
いずれの手法にしても、計測対象の部位に近いところでinjectionがなされる方が
効率が良い。動物実験では多めの量を投薬しても問題がないかもしれないが、臨床
を目論む場合は大きな課題がある。投入物そのものの量にかかわらない毒性もある。
血管にcatheterを導入し、MRIによるガイド下でinjectionがなされることが多い。
リアルタイムMRIを少しかじった人間にとっては、うれしい進展でもある。
現在、interventional MRIという言葉は、このような移植手術ために使われている
ようで脳手術を意図していたのは過去の事になってしまったようだ。
いっぽう、超偏極のNMR/MRIも、可視化したいターゲットにたどり着く前に信号が
減衰してしまう問題があり、同様な効率のよいInjection方法が提案されてきている。
繰り返しなるが、確認しなくてはならないのが、Molecular/Cellularイメージングは
単なる造影効果を狙うのではなく、実際の患部の治療を目的としているものがある点
である。散見されるMolecular/Cellular imagingのMRIへの応用の発表では、たとえば
造影効果のあるGdの周辺に治療薬をカプセル化して付与しているものも多く、もしく
は幹細胞に造影剤を付加して可視化できる状態で体内投与されている。つまり、治療
と可視化の両方を実現し成功率を少しでも担保しようという方向性が非常に強くなって
きていることである。これは、新しい手法が臨床まで持ち込まれるまでに必要な時間を
短縮するのに非常に大きなメリットとなるであろう。
可視化という観点からは、X線装置の世界でも同様な造影剤の提案がなされているよう
である。また、X線およびMRIでも同時に造影効果のあるもので、さらに治療効果のある
分子なども開発が進められているとの発表もあった。
いずれにせよ、縦割りに分割された研究チームではこのような問題もしくは課題に
全く対応できない。日本が世界に遅れないためにはどうすればよいのか。
自分自身の行く末のみならず、世間の動向も気にならずにはいられない。
巨大な資本が動く再生医療というキーワードにも引っかかる技術であろうし、世界戦
を戦っていくためには、垣根を越えたチーム作りが必要に思われる。
***************以下用語説明のため
Islet(アイレット)
CEST(セスト)
MICAD