代表取締役からのごあいさつ(2010年回顧)

Update : 2019.11.25 (09:56:18)

Posted : 2010.07.28 (10:58:00)

皆様に、弊社 エム・アール・テクノロジー(略号;MRTe)の成り立ちと思想、そして業務について少し紹介をさせて頂きます。
エム・アール・テクノロジーという名前は、Magnetic Resonance Technologyを略したものです。
名前のとうり、磁気共鳴を用いた計測法開発の業務を中心としております。
小さな会社ですが、MR技術開発においては世界のトップを走っていると自負しております。

大学四年に進んだ1995年頃、超伝導磁石の発達とコンピューターの小型化の風を受けて、医療用MRIが大きく発展した時代でもあり、課題として魅力に満ちていたので、MRI技術開発に人生の進路を取りました。
しかし、研究室は設備も金も潤沢である筈はなく、パソコンを頼りに手作りのMRIで理論的な研究をしなければならなかったうえに、医者ではない私は、最初から、医療とは離れたMRIの利用を考えるという立場に置かれていました。ここに示す、大学院で行った、液体中の重りの落下のイメージングによる可視化は、Sir.マンスフィールドのEPI法による超高速イメージングで、今でも、計測理論という観点からはMRI計測の先端にあると考えています。
というわけで「大学発ベンチャー」というジャンルで、時々、ご招待頂きますけれど、実態は、企業としての儲けより「先進的な生物研究や物質研究への磁気共鳴の応用に関与したい」と、いう思いが優先された少数精鋭の研究所のような感じです。

大学院の途中から、凄まじい勢いでコンピューターが進化して、新しい状況が生まれました。1)1995年を境にパソコンの性能が飛躍的に向上したこと、それに伴い、2)電子デバイスの部品調達が容易になったこと、そして、3)巨大な超伝導磁石の代わりに永久磁石をMRI用静磁場発生装置として使用しようという考えが出てきたことです。それによって、巨大病院や国・公立の施設でなくても購入・使用・維持できる簡素で、且つ又、ほとんどのニーズが集まるプロトン(水と油脂)専用のMRIを製作できる、と考えました。そして、出来上がった装置を、なるだけ多くの研究者に使って頂きたいと思うようになりました。これは自分が意図したことではなく、たまたま周囲の情勢がそのように回ってきた、つまり、時代の風が吹いたのだと思います。そして、その風に乗ることで常に、MRIという分野では進んだ研究者達と交流し、先端技術を維持できると考えました。このようなわけで、研究開発された技術をもとに企業を起こす、つまり、資産を殖やすとか儲けを出す、というより時代の動きに突き動かされて、当然、時代と共にやってくる分野へ進んだ、という感じがあります。また、永久磁石の供給を引き受けてくれた住友特殊金属やMRIの基盤を製作してくれた城南電子のような方々に恵まれたことも時代の流れと受け取っております。この場を借りて、協力して頂いた方々に心からの感謝をいたします。

ここに示した1Tesla永久磁石の超小型MRIは、最新のもので550kgと軽量で、従来のMRIを考えれば、大型トラックが、手のひらに乗るチョロQになったようなものです。そのうえ、永久磁石を使用しているのでメインテナンスフリー、電源は100V、15Aという経済性を持ち、操作は簡単、軽い空調を備えた綺麗な部屋であれば2平方メートルの空間に置けるという気軽な装置です。もちろん、装置は世界から認められた堅実なものですが、現在はニーズが多いというわけにはいきませんし、そんな簡素な MRIなんて、と頭から否定する人もいます。このような注文量が少ない事柄には、システム化した工場を有し、利権が錯綜した大企業は手を出したがらないことが、間々ありますから、本当に小さな企業でも、ただ、頑張って努力しさえすれば良いというのがベンチャーだと言うのならば、その意味では、我がMRTeもベンチャーとしてのムードは持っていると思います。

御蔭様で、起業して10年の歳月が過ぎていますが、その間に、筑波大学をはじめ多くの先達の鞭撻を受けて、NASAのロケット燃料等計測、航空機による微少重力実験、燃料電池の開発、リウマチ用MRIの開発などのお手伝いをしてきました。とりわけ医療分野への応用、その中でも、四肢用MRI への活用という問題は避けられない仕事の一つと考えております。

もう一つの方向は、永久磁石磁気回路としては非常に高い磁場を発生させることに成功していることです。それが、1T~2Tまでのシリーズで、かなり鮮明なマウスのイメージを撮ることができます。MRIは、世界中の小動物ラボで、需要がありますから最も重要な分野だと思います。小動物、特にマウス、ラットに使う場合、クリーンルームに持ち込む上で小型、軽量化が望まれるので、永久磁石式のMRIの出番になります。
小動物用MRIの明確な方向として分子イメージングという分野があります。
1) マルチモーダル(多手法複合)分子イメージングにおいて蛍光法やPETイメージによる信号に対する臓器特定をする場合は、蛍光やPETは超微量で検出できるのでMRIは分解能は高くなくても良いが明瞭に臓器判別できる能力を有することが重要。もう一つの、
2) 分子標的試薬にぶら下げた蛍光剤やエンハンサーを追跡または、遺伝子発現部位の解析の場合は、蛍光剤やエンハンサーが移動した臓器内の作用位置や、機能位置、そして、発現位置を特定できることが必須。
として、小動物の分野で、発展の道があると考えています。

少し、風変わりだったのは、突如として頼まれたのですが、農林水産省の輸出検疫の仕事がありました。我が国の果実はリンゴに限らず、世界的に「オイシイ」と評判だそうです。しかし、植物防疫、自然生態系保全、あるいは、海外の国の農業保護という観点からは、果実と一緒に害虫まで輸出してしまったら大変なことになります。そこで、リンゴに付くモモシンクイガをMRIで非破壊的に検出できないか?という課題が降ってきました。我が国では定期的に農薬散布をし、収穫と出荷に際し肉眼で丁寧に検査をするので滅多なことはありませんが、モモシンクイガの食入口は小さく、虫糞を果実の外に出さない性質を持つので、非破壊的検査法を開発して完全性を高めようというねらいでした。この仕事は成功しています。
自動選果機を製作する目的で、二次元専用の検出器を作製し、一果実当たり6.4秒で計測できることを示し、特許申請もして快調であったにも係わらず、理由不明で打ち切りになりました。

さて、昨年、秋から本年3月末まで「永久磁石のための磁極精密温度制御装置の開発」が経産省の中小企業ものづくり試作開発等支援事業の対象課題に選ばれました。大分きつい仕事でしたが、御蔭様で、大きな成果をあげる事ができたと考えています。具体的には、
1)永久磁石の静磁場均一性を従来の10E-5から10E-6へ向上させるための磁石温度制御器の開発
2)永久磁石の温度制御をコア・コンピューターでデジタル制御するロジックの開発
を達成し、永久磁石の静磁場均一性を超伝導磁石の水準に引き上げることに成功しています。これも制御方法は特許申請されています。

現在の技術で達成できる限りの超高度電子デバイスを使うことによって、低磁場型永久磁石の静磁場均一性を、超伝導磁石並みの静磁場均一性に高めることが出来たと考えています。ここに挙げたベーコンのDixon法イメージは、従来では、とても得られなかったほど、シャープな輪郭の画像を示しています。
先進電子技術を使って、システム全体を高度化して、扱いやすく、小型で簡素なMRIを作ることが、MRIの利用人口を広げ、ひいては、社会への還元を果たすことと、考えています。

現在、一般家庭でも所有しているWindows型パソコンを用いたMRIシステムは多くはありません。その上、永久磁石の磁場発生装置と組み合わせたMRI 装置は、はからずも、世界で三社しか無いトップ技術です。技術開発を目的とした企業は、高度化が止まった時、倒産の憂き目に会いますので、どこまで開発に努力できるか? が勝負と、日々の激務、と、高度な要求に耐えて頑張っています。また、誠意をもって開発したMR技術は、ネズミ用MRIの医薬品開発への応用、そして、汎用MRIの食品科学、および、物質科学へ応用を通じて、皆様の日常生活の安定と安全性の確保に役立てたい、と考えております。

どうぞ、今後とも、MRTeの応援を、よろしくお願い致します。